枕草子「中納言参りたまひて」敬語と敬意の方向を完全解説
高校古典の定期テストや大学入学共通テスト対策において、多くの学習者がつまずきやすいのが『枕草子』屈指の有名章段「中納言参りたまひて(隆家の扇の骨)」における敬語識別です。冒頭のわずか数文字の中に、古文文法の重要概念である「二方面への敬語」が凝縮されており、敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)や「誰から誰への敬意か」を正確に把握できるかどうかが得点の大きな分かれ目となります。
本稿では、教育現場や難関大入試の出題傾向を踏まえ、「参り」「たまひ」の品詞分解から敬意の方向、藤原隆家・中宮定子・清少納言の人間関係、そして文脈読解の鍵となる「くらげの骨」のエピソードまで、論理的かつ明快に徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「参りたまひて」は「謙譲語(本動詞)+尊敬語(補助動詞)」が合体した「二方面への敬語」の典型例である
- 要点2:敬意の方向は「参り」が筆者(清少納言)から中宮定子(客体)へ、「たまひ」が筆者から中納言隆家(主体)へ向かう
- 要点3:登場人物(定子・隆家・清少納言・伊周)の身分関係と「笑いの機知」を立体的に把握することで、古文全体の読解精度が飛躍する
【敬語識別】「参りたまひて」の品詞分解と敬意の方向を完全攻略
冒頭の一節「中納言参りたまひて」は、テストで最も問われる頻出フレーズです。まずは単語ごとに細かく品詞分解を行い、それぞれの役割と敬意のメカニズムを紐解きます。
【品詞分解の構成】
- 中納言(名詞):藤原隆家(中宮定子の同母弟)を指す動作の主語。
- 参り(動詞):マ行四段活用動詞「参る」の連用形。ここでは「参上する・伺う」を意味する謙譲語の本動詞。
- たまひ(補助動詞):ハ行四段活用動詞「たまふ」の連用形。動作主を敬う「お〜になる」を意味する尊敬語の補助動詞。
- て(助詞):単純接続の接続助詞。
ここで最大のポイントとなるのが、1つの動詞連句の中に「謙譲語」と「尊敬語」が同時に使われている点です。古文文法ではこれを「二方面への敬語(兼ね合いの敬語)」と呼びます。
なぜ敬語が2つ重なるのかというと、動作の「受け手(目的地)」と「送り手(動作主)」の双方が高貴な人物であるためです。この場面では、中納言(藤原隆家)が姉である中宮定子の御所に参上しています。筆者である清少納言から見て、訪問先である中宮定子は最高位の身分であるため、まず「参る(謙譲)」を用いて中宮定子に対する敬意(客体への敬意)を表します。同時に、訪問者である中納言隆家も高官であるため、「たまふ(尊敬)」を添えて中納言に対する敬意(主体への敬意)を立てているのです。

テスト頻出!「中納言参りたまひて」重要敬語の識別&比較データ一覧
章段全体を通して登場する敬語を、種類・用法・敬意の方向ごとに整理しました。定期試験や模試の前には、この一覧表を基準に識別パターンを総点検してください。
| 該当箇所・語句 | 敬語の種類と用法 | 敬意の主体(誰から) | 敬意の客体(誰へ) | 現代語訳・文脈上の役割 |
|---|---|---|---|---|
| 参り(参りたまひて) | 謙譲語(本動詞) | 筆者(清少納言) | 中宮定子(訪問先) | 参上し、伺い |
| たまひ(参りたまひて) | 尊敬語(補助動詞) | 筆者(清少納言) | 中納言(藤原隆家) | なさって(お出ましになって) |
| 奉らせ(奉らせたまふ) | 謙譲語(本動詞) | 筆者(清少納言) | 中宮定子(受取人) | 差し上げ(献上し) |
| たまふ(奉らせたまふ) | 尊敬語(補助動詞) | 筆者(清少納言) | 中納言(藤原隆家) | なさる(お差し上げになる) |
| 侍れ(得て侍れ) | 丁寧語(補助動詞) | 中納言隆家(話者) | 中宮定子(聞き手) | 手に入れました(〜でございます) |
| 仰せられつる | 尊敬語(本動詞) | 中納言隆家(話者) | 中宮定子(動作主) | おっしゃった |
【実態検証】学習現場で頻発するつまずきとリアルな疑問
予備校や進学指導の現場、知恵袋などの学習コミュニティで最も多く寄せられる疑問を検証すると、多くの受験生が「二重敬語(最高敬語)」と「二方面への敬語」を取り違えている実態が浮き彫りになります。
生徒から特によくある質問として、「『せたまふ』などの最高敬語(尊敬+尊敬)と、『参りたまふ』はどう違うのか」というものがあります。最高敬語は、天皇や中宮など1人の人物に対して極めて高い敬意を払うために尊敬語を2段重ねにする文法構造です。一方、「参りたまふ」は「中宮(客体)への謙譲」と「中納言(主体)への尊敬」という異なる2人への敬意が1組になった構造です。この対象の分離を意識できていないと、選択肢問題で確実に失点してしまいます。
また、「地の文」と「会話文」における敬意の主体の切り替えも頻出の落とし穴です。「地の文であれば筆者(清少納言)が主体」「会話文であれば発言者(隆家や定子)が主体」という鉄則を形式的に覚えるだけでなく、実際の文脈の中で即座に人物を割り振る訓練が不可欠です。

【背景と人間関係】中納言隆家と中宮定子・清少納言の機知
敬語の識別を単なる暗記作業に終わらせず、当時の人間関係や物語の背景を理解すると、古文読解は格段に面白くなります。
本章段の主役である中納言・藤原隆家は、関白・藤原道隆の四男であり、一条天皇の后である中宮定子の実弟にあたります。兄には内大臣を務めた藤原伊周がいます。藤原北家中関白家の華々しいサロン文化の中心にいたのが定子であり、そこに仕えていたのが『枕草子』の作者・清少納言です。
【扇の骨とくらげの骨のウイット】
隆家は定子の御所に参上し、「素晴らしい扇の骨を手に入れました。これに見合う名高い紙を張ろうと探しているところです」と誇らしげに語ります。定子が「どんな骨なのですか」と尋ねると、隆家は「誰も見たことがないような素晴らしい骨です」と大げさに自慢しました。すかさず定子はこう返します。
「さては、扇の骨にはあらで、くらげの骨にこそあるべけれ(それでは扇の骨ではなく、誰も見たことがないクラゲの骨のようですね)」
骨のないはずのクラゲを引き合いに出した定子のユーモアあふれる切り返しに、隆家は一本取られたとばかりに「これは隆家が言うはずだった言葉を、先に仰せられてしまいました」と笑い崩れます。この洗練された言葉遊びと家族間のあたたかな空気を、清少納言は敬語を正確に使い分けながら生き生きと記録しているのです。
一般に知られていない盲点とネット解説の誤解を正す
Web上の古文解説や要約記事の中には、初学者向けに単純化しすぎた結果、文法的な誤解を招いているケースが散見されます。特に注意すべき2つの盲点を解説します。
①「参る」を見たら無条件に謙譲語と決めつける誤解
動詞「参る」には、「参上する(謙譲語)」だけでなく、宮中で食事を「召し上がる(尊敬語)」や「召し上がる・飲む(丁寧語)」といった複数の用法が存在します。「中納言参りたまひて」の文脈では「中宮の御所へ行く(訪問する)」動作であるため確実に謙譲語ですが、他の段で「大御酒参る」などとあれば尊敬語になります。常に文脈と前後の助詞(「〜へ参る」のか「〜を参る」のか)を確認する習慣をつけてください。
②「奉らせたまふ」の「せ」を使役と決めつける誤解
「御扇奉らせたまふに」の箇所において、「せ」を単なる使役(誰かに差し上げさせる)と解釈してしまうミスが後を絶ちません。文脈上、隆家自身が直接定子に差し上げている場面であるため、この「せ」は最高級の敬意を示す尊敬の助動詞「す」と解釈するのが一般的です。謙譲語「奉る」と二重尊敬「せたまふ」が連なることで、姉であり最高権威の中宮定子に対する最大限の配慮が表現されています。
【プロの結論】古文敬語を最短でマスターする3ステップ判断基準
古文の敬語問題を確実に得点源へと変えるためには、以下の3ステップに従った体系的なアプローチが推奨されます。
ステップ1:文のタイプを瞬時に見極める(地の文か会話文か)
文が「地の文」であれば、敬意の主体(誰から)は100%「筆者(清少納言)」です。「会話文」であれば、そのセリフを口にしている「話者(隆家や定子)」になります。
ステップ2:敬語の種類を3分類から特定する
・主語(動作をする人)を高めるなら「尊敬語(〜なさる)」
・目的語(動作の相手・客体)を高めるなら「謙譲語(〜申し上げる)」
・聞き手(読者・対話相手)に改まるなら「丁寧語(〜です・ます・ございます)」
ステップ3:複合動詞の敬意を分解する
「参り+たまふ」「奉り+たまふ」のように動詞が連なっている場合は、前半部分で客体への敬意(謙譲)を、後半部分で主体への敬意(尊敬)をそれぞれ個別に矢印を引いて整理します。この「敬意の二方面分離」ができるようになれば、共通テストや二次試験の記述問題でも迷うことはありません。

【中納言 参り た まひ て 敬語】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「参りたまふ」は二重敬語(最高敬語)とは違うのですか?
A1:明確に異なります。二重敬語(最高敬語)は「仰せらる」「せたまふ」のように1人の高貴な人物に対して尊敬語を重ねる用法です。一方、「参りたまふ」は「参り(謙譲語=訪問先の中宮定子へ)」と「たまふ(尊敬語=動作主の中納言隆家へ)」という2つの異なる人物へ敬意を同時に向ける「二方面への敬語」です。
Q2:登場する「中納言」は藤原伊周ですか、それとも藤原隆家ですか?
A2:この段に登場する中納言は藤原隆家(ふじわらのたかいえ)です。兄の藤原伊周はこの当時「内大臣」の地位にあったため、本文中で「中納言」と記されているのは弟の隆家を指します。登場人物の官位と親族関係を整理しておくと文脈が明瞭になります。
Q3:定期テストや大学入試で最も出題されやすい設問形式は何ですか?
A3:「『参り』と『たまひ』の敬意の方向をそれぞれ『誰から誰へ』の形式で記述させる問題」および「定子の『くらげの骨にこそあるべけれ』という発言の意図(比喩と機知の解説)を問う選択・記述問題」が圧倒的頻出パターンです。
まとめ:敬語の構造を理解して古文を得点源に変えよう
『枕草子』の「中納言参りたまひて」は、一見すると複雑な敬語が入り組んでいるように感じられますが、「誰が誰のところへ行き、何を差し上げたのか」という人物の動線と敬意のベクトルを整理すれば、極めてシステマチックに解き明かすことができます。
古文敬語の識別は、単なる知識の詰め込みではなく、平安貴族たちの洗練された人間関係や宮廷サロンの機知を読み解くための最良のツールです。本稿で解説した品詞分解と3ステップの判断基準を活用し、定期テストや入試本番で確実な得点力を発揮してください。 (出典: 中納言 参り た まひ て 敬語(Yahoo!ニュース))